石榴舎ブログ 『俳句は自伝』 |                      by Toyokazu Suzuki

今月の一句 <四月>

さきみちてさくらあをざめゐたるかな  野澤 節子


 昭和48年(53歳)の作。句集『飛泉』(昭51、牧羊社)所収。節子にはめずらしい、平仮名表記。一句になだらかなうねりがある。
「咲きみちて」といえば高浜虚子の、
     咲き満ちてこぼるる花もなかりけり
が、むろん節子の念頭にはあった。師大野林火の『高浜虚子』(昭19、七丈書院)は、療養中の節子の愛読書だった。
 14歳のときカリエスを発症、以後20余年間の闘病生活を送る。第一句集『未明音』(昭和30、8琅玗洞)は、俳句史にのこる名句集。

     遠(をち)の枯木桜と知れば日々待たる   節子  『未明音』
     人寝たり風雲せめぐ春の月
     見えてゐる野薔薇のあたりいつ行けむ
     冬の日や臥して見あぐる琴の丈
     春昼の指とどまれば琴も止む
     三十の憂き黄炎の夏日かな
     風邪ごゑを常臥(とこふ)すよりも憐れまる
     芝焼いて曇日紅き火に仕ふ
     春曙何すべくして目覚めけむ
     天地(あめつち)の息合ひて激し雪降らす

 節子に初めて作品を依頼したのは、「俳句」昭和49年11月号、「佐渡秋意」30句。
    野分浪肺腑もんどり打つばかり   節子
     風浪の果や雨降る葛の島

 『飛泉』は、昭和44年秋より49年秋までの作品601句を収めた第5句集。俳誌「蘭」の主宰として、養痾の身辺吟から旅吟の日々へと、作句環境は大きく変化する。

       法師温泉
     峡ふかく夕焼とどく秋の川    節子    『飛泉』
       高遠
     墓一基こひがんざくらかいどりに
       木曽(8句のうち)
     雪渓を天の鏡に開田村
       新野雪祭(14句のうち)
     雪の田のしんと一夜の神あそび
       白馬(14句のうち)
     紅顔の白馬三山雪に暁く
       秋田(6句のうち)
     雪山は夕日の浄土花の雨
       信濃清内寺村(5句のうち)
     出作りの婆のまろ寝も盆休み
       新野の盆(16句のうち)
     田の風が夜ごとの門火舐めに来る
       安曇野(8句のうち)
     一穂の落穂手ぐさにひとり旅
       みちのく(24句のうち)
     河口真赤に冬日を送り最上川

 節子は、頭掲句のすこし前に、桜の名所吉野の国栖を旅している。
     国栖奏や葛(かづら)巻き締む丸柱    節子
     一卜日暮る紙楮(かみそ)打つ夫紙漉く妻
 『飛泉』のあとがきに、「私の生涯において、おそらく最も激動した期間の作品集ではないかと思っている」と記す。
 内省的抒情から出発した節子は、晩年、軽みの境地に到達した。

     古稀といふ発心のとき花あらし   節子  『駿河蘭』

平成7年4月9日、永眠。享年75。横浜市三ッ沢中町の自宅で葬儀・告別式。
花冷えの日だった。
     
     牡丹雪しばらく息をつがぬまま   節子   (絶句)


               野澤節子を憶ふ
花冷えの詩文にいのちかけしかな     赤榴子



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Category : 四月
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