石榴舎ブログ 『俳句は自伝』 |                      by Toyokazu Suzuki

今月の一句 <十月>(2)

あやまちはくりかへします秋の暮     三橋 敏雄


 句集『疊の上』(昭63、立風書房)所収。同書により第23回蛇笏賞を受賞。
 「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」。広島平和都市記念碑、俗称・原爆死没者慰霊碑に彫られた言葉だ。いまでは、文面の作者名もおおやけになっているが、賛否ともども議論がたえない。三橋は、俳人として、ひとつの結論を出した。碑文の偽善性を喝破したのだ。
 少年時代から異色の俳人として知られ、生涯、我執を捨てることはなかった。

 昭和10年、新興俳句に共鳴して実作をはじめ、12年渡辺白泉に師事。13年、無季戦争俳句、いわゆる戦火相望俳句を発表、山口誓子より賛辞を受ける。同年白泉のすすめにより西東三鬼に師事。14年、三鬼在籍の貿易商社に入り、部下となる。その後、新興俳句、古典俳句の研究に没頭。18年、応召し水兵となる。

 三橋の句稿を最初に受けとったのは、中央線八王子駅のホームだった。一読、独自の発想と表現に魅了された。以来、「俳句」「俳句研究」の編集を通して、勤勉、誠実な人柄にずいぶん助けられた。

 以下、愛誦句を引く。

     かもめ来よ天金の書をひらくたび    三橋 敏雄
     いつせいに柱の燃ゆる都かな
     共に泳ぐ幻の鱶(ふか)僕のやうに
     絶滅のかの狼を連れ歩く
     鈴に入る玉こそよけれ春のくれ
     いくたびも日落つる秋の帝かな
     鷓鴣(しゃこ)は逝き家の中まで石河原
     夏すでに陸封のわが晩年ぞ
     軍装の昭和天皇御神影
     秋の字に永久(とは)に棲む火やきのこ雲


三橋敏雄を憶ふあああああああああああ
防災の真神を祀る秋の暮     赤榴子


mitsuhashi151017.jpg
三橋敏雄、右は盟友佐藤鬼房

Category : 十月
Posted by sekiryusha on  | 0 comments  0 trackback

今月の一句 <十月> (1)


帰る家あるが淋しき草紅葉   永井 龍男


 草紅葉は、晩秋の季語。樹木の紅葉とは別趣の味わいがある。鎌倉の永井邸を訪ねたのは、萩の花の真っ盛りのころ。玄関の門柱を覆うばかりに紅白の萩が咲いていた。広い和室で茶菓のご馳走になった。ほのかな含羞をおびた語らいに、人なつかしい気持がこもる。永井にとって、俳句はまさに私小説そのものだった。

 以下、愛誦句を引く。


     秋の夜の人なつこさの焼林檎   龍 男
     秋深し日暮れの畑の唐辛子  
     庭石にもみぢ葉寄する夜風あり
     萩は散り好日菊にやや早く
     御手洗へ雨がこぼせし萩紅白
     水注いで甕の深さや虫時雨
     振り向けば山見ゆるなり枯芒
     桔梗の白の切り込みくるひなく
     秋霖や網戸すだれと流人われ
     白萩に蜘蛛の吊りたる一花二花


草紅葉谷戸ふかく人住めりけり     赤榴子



Category : 十月
Posted by sekiryusha on  | 0 comments  0 trackback
該当の記事は見つかりませんでした。