石榴舎ブログ 『俳句は自伝』 |                      by Toyokazu Suzuki

今月の一句 <十一月>


病院の窓の小春を楽しめり   高濱 年尾


 「病床百吟」(『年尾全句集』昭55・10、新樹社)所収。昭和53年作。年尾は昭和52年7月、脳出血のため聖路加病院に入院。同年9月、長女の坊城中子が看護部長を務める稲田登戸病院に転院。2年後の54年10月26日、不帰の客となる。享年79。

 小春は陰暦10月の異称。連俳以来、初冬の温暖な日和が愛された。病人には、ひとときの安穏の恵みをあたえる。
 「病床百吟」の収録句数は、その集名に反して1071句。病床六尺で連想力を駆使し、旺盛な作句力を発揮した。

     声あげて泣くばかり秋深みたり   年 尾
     初冬の病むてふことのうたてさよ
     人の世の波瀾万丈木の葉髪
     吾一人落伍をしたる虚子忌かな

 平明にして余韻があり、花鳥諷詠の伝統をふまえている。根底にあるのは、有情滑稽のかなしびである。

 稲田登戸病院での闘病の様子は、坊城中子が冷静かつ刻明に記録した。祖父虚子の臨終記とともに、終末期の看護記録として貴重なものだ。中子のエッセイ集『俳句の家』(平22、角川学芸出版)に収録。
 高濱年尾をホトトギス社に訪ねたことが何度かある。俳句の企画の依頼のためだったが、これは実現しなかった。その後何年かして、池内たけしの葬儀(昭49・12・27)の折、弔辞を終えて堀ノ内妙法寺から欅並木の道を歩いてくる年尾に会った。立ちどまって挨拶すると、「また遊びにいらっしゃい」と言われた。人情に篤いひとだった。今年、35回めの年尾忌が過ぎた。

小春日や一会のえにしただならず  赤榴子



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Category : 十一月
Posted by sekiryusha on  | 5 comments  0 trackback
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